ハッピィ☆スプリング  

 マラソン大会の次の日にスプリングコンサートが行われました。会場は土木の人達が中心に作ってくれたステージを使っての山小屋です。 
 マラソン大会の日の夕飯後、一斉に準備に取りかかりました。外は夜で暗いため、車のライトを照らして、楽器搬入と飾り付けをしました。
 私はスプリングコンサートの飾り係でした。メンバー発表がされてから、どういう風に飾り付けをするかをリーダーのなおみちゃん、かにちゃん、そしてみかちゃんと私で中心に話し合っていきました。
 物干し竿に、風車があったらどうかというアイディアが出て、インターネットで作り方を調べました。「花車だね」と話し合って楽しかったです。
 試しにかにちゃんと紙で作ってみました。そうして、回るかどうかを確認するために外に出た瞬間、風と共に風車がからからと音を立てて回り始めました。
 それには驚きと感動で、
(これが飾られたらすごく素敵だな)
 と思いました。
 初め、飾り係はあまりまとまりがよくありませんでした。
 リーダーのなおみちゃんは、他にもコンサートの後に行われる親子ミーティングで使うビデオを撮影する係も受け持っていました。
 かにちゃんはまだ入居して日が短く、年齢も1番下で、きっと解らない事が多く、不安な気持ちでいっぱいなのではないかな、と思いました。
 少しでも2人をサポートできたらいいな、という気持ちでいっぱいでした。
 ある日、飾り係で集まり、おはながみで花を作る時間がありました。
 なおみちゃんはビデオ撮影にまわり、みかちゃんは山小屋便りの編集でいませんでした。
 その日は、みんなと気持ちを1つにして作業に取り組めていると感じられませんでした。
 私は係全体を良い方向に持っていこうとする気持ちは強くあったのですが、どうしたら良い方向に持って行けるのかが解らなくて、逃げ出したくなる自分がいました。

・自分の気持ちをぶつける

 その日の夜、ある出来事が
ありました。
 夕飯後、なおみちゃんが1人でおはながみを開いていました。
 私はその姿を見て胸がちくりとしました。一緒に開く作業をしました。
 その後、なおみちゃんは大正琴の練習に行きました。OMTからかにちゃんが帰ってきて、一緒に開く作業をしました。
 それまで気付かなかったけれど、飾り係の子はリビングに何人かいました。
 けれど、衣装係の準備を手伝っていました。私はその姿を見て、胸が痛くなりました。 私は、
「飾りの子が、衣装の準備をしている……」
 と独り言を言ってどうにかしようと立ち上がりました。
 すると、大正琴をしていたなおみちゃんが、さっと立ち上がって、
「飾りの準備があるから」
 とその子達に言いました。
 ある子が、
「そうなの? だって、何したら良いのか知らなかった」
 と言いました。なおみちゃんは、
「開く花がいっぱいあるから」
 と言い、少しやりとりをして去って行きました。
 私はそれを見ていて、なおみちゃんがとても心配になりました。
 また、見ているだけで何もする事ができない自分がいました。
 その後、飾り係の子達でおはながみを開く作業をしていきました。私は八時に小バンド練習で抜ける事になっていました。その場に丁度、入居して長い子が3人いました。
 私は自分の気持ちを正直に話しました。
「今、なおみちゃんはビデオ撮影もあって、きっと大変でいっぱいいっぱいになってしまう事があると思う。かにちゃんも入居して日が短くて、年齢も下だから、きっと不安な気持ちでいっぱいだと思う。だから、私達が2人をサポートして、みんなで飾り係を良い方向に持って行けたら嬉しいな。私はまだ経験も知識も乏しくて、私1人で良い方向に持っていくことはとても難しい。だからみんなで一体となって飾り係を盛り立てて行きたい」
 と伝えました。
 話を聞いてくれた3人は、私の目を真っ直ぐに見て、真正面から受け入れてくれました。ある子が、
「ごめん、無責任だった」
 と言ってくれました。私はその子を責める気持ちはありませんでした。私もちゃんとやる事を伝えられていなかったし、そういう気持ちにさせてしまったのには私にも原因があると思いました。誰の事も責める事はできません。
 小バンドの練習からリビングへ戻ると、飾り係の子達が一体となっておはながみの花を開いていました。お姉ちゃんが妹の面倒を見る様に、入居の長い子がまだ新しい子を中心に引っ張っている様に見えて、温かい気持ちになりました。
 次の日から、ベランダに飾る、のれんも作り始めました。
 スピードも増した様に感じて、みんなと気持ちが1つなる事に勝るものはないと思いました。
 なつこちゃんとでき上がったのれんをなおみちゃんに見せたいと話し合い、昼食前にビデオの編集で山小屋に上がってくるなおみちゃんを待っていました。
 2人で、なおみちゃんにゆらゆらと流れるのれんを見せると、満面の笑みで、
「可愛い」
 と言ってくれて、嬉しかったです。

・飾り付け

 そしてコンサート前日。マラソン大会の後でみんな疲れがたまっているはずなのに、飾り係でない人も一緒に準備を進めてくれました。
 森盛庵1階で、物干竿に風車をとりつけて行く作業をしました。
 その場のメンバーで指揮をとらなくてはいけないのは、飾り係で入居の長い私だと思いました。
 しかし、15人程の人数の多さで、上手くまとめる事ができませんでした。
 途中、お母さんが来て下さいました。お母さんがすぐに声をかけて下さり、スムーズに作業に取りかかる事ができました。お父さんが、
「人をよく働かせる人が良いリーダーだ」
 と前に言っていました。私もお母さんのように、その場に応じて瞬時にどうしたらみんなが楽しく効率よく仕事ができるのかを考え、しっかりと指揮の取れる人になって行きたいと思いました。
 山小屋に戻る時、車のライトで大きな梨の花をバックに山小屋が見えました。
 とても幻想的で、物語に出てきそうな温かい感じでした。
 そのことを次の日の朝食の席で亜希子さんもおっしゃっていて嬉しかったです。
 ベランダに黄色、白、オレンジ、ピンクののれんが吊り下げられていました。イメージ通りの飾りが目の前に飾られ、みんなの力が合わさるとすごいなと思いました。
 当日、飾り係が作った花ののれんと花車とステージの飾り付けと、看板係の人達が作った、「SPRING CONCERT」の看板とが合わさりました。
 この日に向けてそれぞれ準備してきたものが合わさったのだと思い、みんなと気持ちが1つだと思いました。
 リハーサルをしていた時、風が吹きました。
 ステージに立っていたのですが、風に乗って風車がからからと一斉に回りました。
 また、満開の梨の花がパーッと散り、まるでこの日を待ち構えていたかのようにコンサートを飾りました。
 風車が回った様子を、お母さんがとても喜んでいる姿を見て、嬉しくなりました。
(きっと、みんな同じ気持ちなんだろうな)
 と思いました。
 コンサート本番は、あっという間に終わりました。どの瞬間もとても楽しかったと感じます。

・楽器演奏

 演奏で、私は「自由」のドラムでした。
 お父さんが後ろで指揮をとってくれて、その指揮に合わせて叩きました。演奏が終わった後、お父さんが大きな丸で合図をしてくれて、
(良かった)
 と思いました。
 心に残っているのは、演奏最後の「島唄」のドラムです。
 島唄には、ドラム・コンガ・ボンゴ・和太鼓といった打楽器のソロの部分が途中にあります。練習でお母さんに、
「笑顔で、見てくれている人が楽しいと思う様に叩かなくてはいけない」
 と教えて貰いました。
 それまでは、思いきり叩いて怒られたらどうしよう、という不安な気持ちがありました。今はその気持ちが、とても偉そうだと思います。
 そうやって臆病さに逃げて、自分をさらけ出さずに殻に閉じこもる事を家族にする事は、とても失礼だし間違っていると思います。
 お母さんの言葉を聞いて、自分の中でもやもやしていた気持ちがとれて、
(思いきり叩いて自分を表現したい)
 と思いました。
 本番、「島唄」の曲に入る前に同じドラムのもろちゃんと笑顔で手を握り合いました。
 私の中でドラムと言ったらもろちゃんです。
 彼女とは新春コンサートの時から小バンドのドラムで一緒にしてきました。こんな事を言ったら偉そうなのかもしれないけれど、ドラムの「パートナー」みたいな存在です。 嬉しい事も苦しい事も共に乗り越えて一緒に成長してきました。
 ドラムはステージの一番上にあり、景色を堪能しながら叩く事ができました。
 本番では、間違えたって怒られたってどうなったっていいから、自分を精一杯表現したいという気持ちで叩きました。とても気持ちが良くて、演奏が終わった後、お客さんの後ろでお母さんが優しく楽しそうに笑っていてくれているのが見えて嬉しかったです。
 

・リーダーとして

 楽しい時間はあっという間に過ぎて、休憩を挟み、ダンスの時間になりました。「オブラディ・オブラダ」「What A Fool Believes」「Take You There」の3曲を踊りました。
 今回、まこちゃんと一緒にダンスのリーダーをやらせてもらう事になりました。
 忙しい期間に時間を見つけて練習をする事はとても難しかったです。
 マラソン練習や各係の準備などで疲れている中、みんなの体調が心配でした。
 しかし、残り一週間しかなかったので、朝食前の時間を使い、練習をする事にしました。
 全員が全員揃う事はあまり無かったのですが、それでもみんな積極的にダンスの練習に来てくれました。
 入居の長い子は、一緒に盛り立ててダンス部を引っ張ってくれたように感じられて嬉しかったです。
 「オブラディ」の練習をして、嬉しい発見がありました。
 それは、毎日の筋トレのせいか、足腰が鍛えられていると感じた事です。
 しゃがんだり跳ねたりの繰り返しのダンスで、結構大変なのですが、この期間の練習では疲れを感じる事がありませんでした。
 みんなも同じだと言っていて、みんなと一緒に身体を強くしたんだな、と思うと嬉しかったです。
 私は筋トレを、マラソン大会2週間くらい前から真剣に取り組むようにしました。
 始めは腕立て伏せが全くできなくて、腕の筋肉も弱かったのですが、最後はだんだんできるようになり、筋肉もつきました。
 その時はきついのだけれど、そのきつさや苦しさを乗り越えると、何よりも全て自分自身に跳ね返って来るのだと改めて思いました。
 生きていくのには、体力がなくてはいけません。力がなかったら大切な人を守る事もできないです。
 だから、もっと心と身体を強くして、たくましい女性になりたいと思いました。
 本番ではみんなと曲ごとにお揃いの衣装を着て踊りました。特に印象に残っているのは、ラストの「Take You There」です。
 この曲は、真面目に生きたいのに、それが叶わないためにやさぐれている18歳の男の子をイメージして踊っています。
 来ている親御さん方を目の前に、この曲を踊る事は、自分の親がその場にいる、いないに関わらず、しっかりと自分達の思いを伝えようと踊る事が大切だと思いました。
 後ろで、お父さんとお母さんが大きく手拍子をして下さっているのが見えて、
(しっかり踊ろう)
 という気持ちが高まりました。家族の応援の拍手や歓声を聞いて、
(みんなと1つに踊っているのだ! みんなの気持ちを私達が伝えているのだ!)
 と思いました。練習時間はあまり無かったけれど、私もみんなも精一杯踊ったと思います。
   
・小バンドの1人として

 
コンサートのラストは小バンド演奏でした。
 私は今回、、お母さんの歌う「宙船」と、亜希子さんの歌う「We can go」のドラムで出させてもらいました。
 その前に、あすかちゃんの歌う「BORDERRINE」を聴きました。いつもに増して凛とした姿と透明感のある歌声に魅了されて、格好いいなと思いました。
 「We can go」のドラムはとても楽しく叩く事ができました。下にいるもろちゃんと目が合って、目で「格好いいよ、頑張れ」とエールを送ってくれているように感じました。
 るりちゃんとも目が合って心から笑顔になれました。同じドラムのあすかちゃんとも笑い合いました。
 前を見るとたくさんの家族がいます。お父さんは大きな丸を笑顔で向けてくれているし、お母さんも笑っています。
 私は心から楽しくて、亜希子さんと一緒にサビの部分を「We can go!」と言って叩きました。
 全体が一体となっているのを感じました。みんなの存在をとても大きく、近く感じた瞬間だったと思います。
 お母さんの歌う「宙船」のドラムも、とても気持ちが良かったです。お母さんの歌がとても力強くて、お母さんに添うように私も思いきり叩きました。
 お母さんの背中は後ろから見ていて、いつも以上に大きくて強くて1本の木のように芯のある真っ直ぐな姿でした。「なのはなのお母さん」だと思いました。
 スプリングコンサートのラストを飾ったのは、お父さんの「傘がない」です。
 まるでスターのようで格好良かったです。お父さんがお母さんに向けてこの曲を全身全霊で歌っていて、素敵でした。
 私もここでしっかりと自分を作って、いつしかパートナーとなる人と巡り会い、お父さんとお母さんのような夫婦となって幸せに生きていきたいと思いました。
 コンサートはあっという間に終わってしまい、後片付けもみんなと力を合わせて一時間ほどで終わらせました。

・コンサートを終えて

 
マラソン大会、スプリングコンサートと春の一大イベントが終わり、充実感と達成感でいっぱいです。
 お父さんがいつも言われるように、本番はおまけのようなもので、全ては過程にあるのだと実感しました。
 私はずっと結果だけを求めて生きてきました。
 また、物事に取り組む時に、真剣さと真面目さがとても少なかったという事に気付きました。
 お父さんとお母さんに褒められた訳ではありません。
 しかし話していなくても、お父さんとお母さんの言われる事をひたすら信じて取り組む事で、2人との信頼関係が増しているのを感じました。 2人と直接話していなくても、2人は心の目で私の事を見てくれているから、全てお見通しで、全て解ってくれているのだと思いました。
 心から理解してくれるお父さんとお母さんがいるから、私はもっと上の自分を目指して、決して自分におごる事無く、なのはなの子として生きていこうと思います。
 マラソン大会、スプリングコンサートを大きな節目として、また真面目に前向きにひたむきに、お父さんとお母さんを信じて生きていきます。